執筆者:内閣官房企画官 岡本信一氏
コラム紹介:秋田県大館市アートプロジェクト
ゼロダテ/大館展 2007

少子高齢化による生産年齢人口の減少、地方交付税の大幅な減額による財政危機という厳しい状況の中でも、地域の潜在的な能力と可能性に賭け、新たな挑戦に取り組んでいる海士町の挑戦の背景と現状について述べていきます。

島根県隠岐郡海士町

島根県隠岐郡海士町は、島根半島の沖合い約60kmの日本海に浮かぶ隠岐諸島の中ノ島からなる面積33.5k屐⊃邑2581人(平成17年国勢調査)の町です。

中ノ島は、大山隠岐国立公園に指定されるなど、豊かな海に囲まれ、また、鎌倉時代に承久の乱に敗れた後鳥羽上皇が流されて一生を終えた島として知られ、貴重な文化遺産・史跡や伝承が数多く残っている島です。


海士町のホームページ  http://www.oki-ama.net/

借金による公共投資が財政危機を招く

海士町では、国の経済対策に呼応する形で、公共事業への投資を進め、漁港・港湾整備、下水道整備、福祉施設等の建設を進めた結果、暮らしや安全面等で改善された一方で、その財源の一つである地方債が膨らみ、財政運営上大きな重荷としてのしかかってきました。平成11年度の中期財政計画では、毎年度約2億円の財源が不足し、これを基金で補うと平成14年度には底を尽き財政再建団体へ転落する危険性が予測されていました。

この平成11年度には、景気対策としての大規模な公共投資にも限界が見え始め、ハード整備からソフト整備へと地域のニーズも変わってきました。こうした時代の流れを受け止め、海士町では、自立に向けて第三次海士町総合振興計画(キンニャモニャの変)「海士町行財政改革やるぞ計画」が策定されました。

その結果、平成14年度に約1億9千万円の削減実績を上げたことにより、平成14年度には83百万円減の698百万円とすることが出来ましたが、現状維持のままでは、基金の払底と近い将来に財政再建団体に転落してしまう危機的な状況が続くこととなりました。

さらに、平成16年度に行われた地方交付税及び臨時財政対策債の見直しで、大幅減額され、島の存続さえも危うい状況となり、極端な少子高齢化という問題を抱えている為、課税対象となる生産年齢人口や法人が少なく、大きな増収は見込めず、更なる歳出の抑制が必要となりました。

自立促進プラン

海士町では、この危機的な状況を打開する為には、住民代表や議会と共に、苦境を乗り越える策を検討しました。その結果、人口施策(定住対策)及び産業振興への投資も取り入れた「攻め」と「守り」の改革から光を見いだそうとの結論が出されました。これを踏まえ、島の生き残りを賭けた「海士町自立促進プラン」が策定され、行政が率先して徹底的なコスト削減を実施し、海士町内の地区全てを回って座談会を開催し、住民と危機感を共有することにより、島の再生に向けて一致団結していく気運と、まちづくり応援体制が出来てきています。

海士町の人口は、2581人で、ピーク時からは約63%減少しており、地域全体の活力の低下にもつながる深刻な問題となっています。

人口減少の原因は、産業が立地せず、就業機会や雇用の場が稀少であるために、昭和50年代頃から、若年層が島外に進学・就職・結婚・都心に定住という形で流出することでした。その結果、極端な少子高齢化が進展しました。

そこで、「海士町自立促進プラン」では人口の減少を、海士町を破壊する深刻な問題とし、中期戦略として自然減による減少分(年平均43人)を考慮に入れて百人の人口創出により人口2600人を目標としています。

この目標実現の為、様々な定住対策を実施した結果、平成17年度には46世帯101人のIターン・Uターン者が移住して来ることとなりました。

農林水産物のブランド化

ブランド化を目指す隠岐牛

「海士町自立促進プラン」で、「海」「潮風」「塩」の3つをキーワードに地域資源を有効に活用し、「島をまるごとブランド化」する為、「人づくり」、「モノづくり」、「健康づくり」の3本柱を軸に地域再生を推進することとし、地域再生計画(海土デパートメントストア━プラン〜「選ばれし島まるごと届けます」〜)を策定して、 町が一丸となって自立を目指し、地域再生に取り組んでいます。

放牧環境を活かし、ミネラル豊富な潮風が育てた牧草を食べ放牧された隠岐牛は、市場関係者から「松坂牛に負けない品質」と高い評価を 受けています。また、離島の良さを活かす天然塩づくりにも本格的に取り組み、伝統文化、食品文化の復活、本物の味で島国らしい商品開発が行われることとなりました。


ヒット商品となった【さざえカレー】

さらに、外部人材の呼び込みも行い、やる気のある者に常駐してもらい、地元に無い発想で「島の宝」とも言うべき地域資源を掘り起こし、特産品等の商品開発につなげていく試みを行っています。これにより、産み出された代表的なものの一つに「さざえカレー」があります。同町では、サザエが豊富であることからカレーにはサザエを入れていましたが、島外の人たちにとっては常識破りの珍カレーということで商品化し、第一号の特産品ブランドとして認知されています。今では、年間約3万個売れるヒット商品となっています。

終わりに

海士町では、依然として、極端な少子高齢化、財政悪化など危機的な状況ですが、「自立・挑戦・交流〜そして確かな明日へ〜」を合言葉に行政も住民も一緒になって大胆な行財政改革をする一方で、産業振興策や定住促進策に積極的な投資を行っています。

海士町の挑戦は続きますが、知恵と工夫の競争により、自立に向けて大きく一歩を踏み出したと言えます。

月刊「地方財務」2006年4月号に掲載したものから抜粋

この報告は、内閣府経済社会総合研究所が運営するサイト「わがまち元気」の特区・地域再生コーナーに掲載されています。元の記事は以下にあります。

http://www.wagamachigenki.jp/saisei/index.html