監修

(株)フレックスコミュニケーション
代表   

播摩早苗さん

HBC北海道放送アナウンサーとして勤務後独立。コミュニケーション心理学、自己表現、コーチングを学び、2001年フレックスコミュニケーション設立。自らも講師として、企業内の管理職研修、営業職研修、プレゼン研修を行うほか、ラジオ番組出演、経営者・管理職対象の講演などを通して、コーチングの普及活動を行っている。




ビジネスの正解を誰も知らない時代へ突入!

企業はこれまで、過去から教わってきたノウハウや経験を引き継ぐことで、仕事の成果を出すことができた。しかし、近年ビジネスサイクルが急速に短くなり、これまでの組織のやり方では通用しなくなってきている。

つまり、ビジネスの正解を誰も知らない時代へ突入したのだ。そのような時代にあっては、従来型の「経営者や上司が命じて、部下が指示通り動く」というスタイルでは成果が出せなくなっている。目標とされるのは、自ら考えて行動に移せる社員がたくさんいる組織である。会社の存亡を賭けて、企業は自立した社員を育てることが急務となっている。

今、自ら考えて行動できる人を育てるための方法として、ビジネス界やスポーツ界で注目されているのがコーチングだ。ビジネス界では、日産のカルロス・ゴーンやGEの会長であったジャック・ウェルチ、スポーツ界ではタイガー・ウッズやロッテのバレンタイン監督が取り入れていることでも知られている。














部下が「やらされる」から「自分からやる」に!

「社員が考えて行動をしない」と嘆く経営者は多いが、実際のところ、部下が考える環境を会社内に作っていないという場合が非常に多い。たいていは、経営者が社員へ指示を出すトップダウン方式で、社員はその通りに動いているだけだ。これでは、いつまで経っても社員は育ってはいかない。

「コーチングとは、経営者や上司が部下の優れた能力を引き出しながら、部下が自発的に行動することを促すためのコミュニケーション・スキルです」と(株)フレックスコミュニケーション代表の播摩早苗さんは語る。つまり、コーチングを行うことで、社員が自ら率先して考え、行動できるようになるということだ。

それでは具体的にコーチングのスキルを見ていこう。コーチングの代表的なスキルには以下の4つが挙げられる。それぞれのスキルを見ていくとわかるが、コミュニケーション能力に長けた人は、すでに実践しているスキルも多いのが特長だ。

■コーチングの4つのスキル

1.「承認・フィードバック」

「承認」のスキルは、部下に「ここにいてもいい」、「必要とされている」と思わせること。
まず、経営者や上司から部下へ毎朝名前を呼んで挨拶をするなど、声をかけることから始めると良い。また、良い方向へ変化したり、成果を出した場合にはしっかりと認める言葉をかけたりすることも大切。お互いの存在を認め合っているという信頼関係がコーチングの大前提となる。

「フィードバック」は、部下がミスをした際に、叱ったり怒ったりする代わりに、ミスの内容を部下に戻して考えさせる。正しい情報を持っていなかった場合には、最後にアドバイスを行う。フィードバックの会話例は以下の通り。

上司
部下
上司
部下

上司
部下

上司
部下

上司
部下
上司
部下
上司

部下
「A君、この間作ってもらった文章だけど、季節の挨拶が間違っているね」
「申し訳ありません」
「責めてるんじゃないんだ。もう一度目を通してみて」
「あっ。立冬が過ぎてからは秋冷の候とは言わないんですね。うっかりしてました。このまま発送したら、お客様に対して恥ずかしい思いをしていました」
「そうだね。これから同じミスをしないためにどう改善していく?」
「前回発送した文章を元に作ったのですが、本文にばかり気をとられて挨拶文をチェックしなかったことが原因です。これからは挨拶文から順に書き換えます」
「ほかに何か改善点はある?」
「今思いついたのですが、パソコンの文章の元となる文章を季節ごとに分けて保存します」
「できそうかい?」
「はい。今すぐにやります。ファイルを分けるだけなので、すぐできます」
「1つアドバイスしていいかな」
「お願いします!」
「先輩のMさんの季節の挨拶は、通りいっぺんではなく温かみがあるとお客様から評判がいいんだ。Mさんの文章を一度見せてもらったら?」
「はい! 早速見せてもらいます!」

※「今すぐ使える! コーチング(播摩早苗著)」より



2.「ペーシング」

部下が警戒しないように、コミュニケーションのペースを合わせること。具体的には、「部下に穏やかな表情で向き合う」、「部下とアイコンタクトをとる」、「声の調子を明るくする」など。コーチングを行う時だけでなく、普段から安心感を与える関係を築いておくことが必要。簡単なようだが、経営者や上司にとって、部下にこのような態度で接するのは最も抵抗感を感じることのひとつといえる。

3.「聴く」

コーチングにおいて「聴くスキル」は最も大切なスキルといえる。例えば、以下のような相談を受けたとする。

部下
「A店の出店の件ですが・・・・・・。これぞという場所を見つけたのですが、物件のオーナーが首を縦に振ってくれません。正直、ここで頓挫するのは悔しいです」

※「今すぐ使える! コーチング(播摩早苗著)」より



部下の話を聞いていると「私の若い頃はこうしていた」「それはこうした方が良いよ」などコメントを発してしまいたくなるが、そこはグッと押さえ込む。コーチングには意見や説教、批判、解決策の提示などを行わない。また、部下の話を聴いたら「要約」「復唱」「相槌」「頷き」などで「受け入れたサイン」を出す。質問の答えの例は以下のようになる。

上司
「物件のオーナーがイエスと言わないのか。君は悔しいんだね」

※「今すぐ使える! コーチング(播摩早苗著)」より

ここでは上司は「復唱」を行っている。「相手は自立している人だから、自分が一緒に解決しなくてもいい。この人の課題は、この人自身で解決できる」という心構えで、待つことが必要。上司が上手く聴くことで、部下は自分の行うべき行動に気づいていく。

4.「質問」

コーチングにおける「質問のスキル」は、会話をグイグイ引っ張っていくというものではない。コーチングでは、質問によって潜在意識にある有益な情報を部下自信が気づいていくことが大切になる。そこで「質問」を行う上で重要なことは、「部下に考えさせるため、サポートに徹するといった意識を持つこと」、「部下の思考を興味本位な質問で邪魔しないこと」の2点である。それでは「質問のスキル」の悪い例と良い例を見ていく。

悪い例
上司
部下
上司
部下
上司
部下
上司
部下
「今日はどことどこを回ったの?」
「A社とB物産とC商事です」
「何か気になるところがあるとするとどこ?」
「気になるところですか? C商事ですかね」
「誰にあったの?」
「専務です」
「どういう話をしたの?」
「今回の新商品についてなんですが、利幅が少ないとおっしゃっていました。大量仕入れの場合、卸値を抑えられないかというお話でした」

良い例
上司
部下

上司
部下


上司
部下
「今日の営業活動について詳しく話してくれる?」
「今日はB物産を回ったのですが、新しい仕事の発注が取れそうです。ちょくちょく足を運んでいた甲斐がありました」
「時間をかけた努力が報われたんだね」
「はい。B物産は新しいプロジェクトが動き出していたので、もしかしたら自社の新製品が売り込めるのではないかと予測していたんです。今日中に見積もりを作りますので、後ほどご相談させてください」
「わかった。そのほかには何かある?」
「C商事の専務と話をしたのですが、今回の新商品は利幅が少ないとおっしゃっていました。大量仕入れの場合、卸値を抑えられないかというお話だったので、工場に直接交渉してみようと思います」

※「今すぐ使える! コーチング(播摩早苗著)」より

コーチングにおいては、「はい」や「いいえ」だけでしか答えられなかったり、答え方を限定したりする質問は良くない。例えば、「今日はどことどこを回ったの?」という質問ではなく、「今日の営業活動について詳しく話してくれる?」というように「広くきく」ことが大切。

もしかすると、部下はB物産について話したい内容を持っている場合もある。また、部下は重要な情報から順に話す可能性が高く、上司は現場の情報を優先順位の高い順に収集できる。


まずは、経営者や上司が変わらなければならない!

「このようにコーチングのスキルを見ていくとわかるように、コーチングを導入するにあたってまず変えなければいけないのは、経営者や管理職の心構えである。部下が物事を言いやすい環境を用意し、魅力的な上司になるところから始めなくてはならない。

経営者や上司は、ついつい小言や指示を出したくなってしまうが、コーチングを行っている最中は、部下の意見を否定してはいけないし、指示や命令を言ってはいけない。その対話の中で、部下は自ら解決策を見つけ出していくからこそ、考えて行動に移せる社員が育つのである。

ただし、部下に意見を言ったり、何かを教えたりするティーチングが必要ないのかというとそうではない。入社したての新入社員など経験の浅い部下に対しては、社会人としてのマナーなど、知らないことは教えていかなければならないし、場合によっては叱ることも必要だ。コーチングとティーチングを場面や相手によって使い分けることが重要だ。

様々な可能性が広がるコーチング

企業の経営者や管理職にプライベートコーチを雇ったり、研修を行ったりする企業が増えている。企業に取り入れる際、コーチングのスキルは様々に応用できる。例えば、「仕事の進捗状況を確認する部下との面談」、「創造的なアイデアを出すための会議」、「部下のキャリアビジョンの相談」などである。

また、今回は主に自立型社員を育成することをテーマにしたが、「経営者がコーチを雇って経営ビジョンを明確にする」「営業トークにコーチングを応用する」「普段の生活における家族との会話」など、コーチングは様々なビジネスシーンでの利用が可能である。コーチングを言い換えれば、ビジネスや生活の中でパートナーの能力を向上させ、WIN-WINの関係を築くコミュニケーション・スキルということができる。