有限会社菊屋
1952年、前身「三島屋ふとん店」が静岡県磐田市に開業。1978年、「有限会社菊屋」に店名変更。 蚊帳の製造販売で業績を伸ばし、ショールームとして「蚊帳の博物館」を持つ。また、ウェブサイト「あんみんCOM」からの販売も行っている。

菊屋のホームページ

http://www.anmin.com/

父から受け継いだふとん店が業績悪化…大事なのれんを守れるか?

「蚊帳」…もはや、この漢字を正しく読める人も少なくなっているだろう。冷房のない日本家屋で、蒸し暑い夏の夜を快適に過ごす古人の知恵「かや」。この素晴らしい道具が日本人の生活から姿を消してから、長い月日が経ってしまった。そして2000年には、業界団体「日本蚊帳商工組合」も、江戸時代から続く長い歴史に幕を下ろした。

しかし現在、この「蚊帳」の復権を目指すことで、結果的に業績を伸ばしている店がある。静岡県磐田市・ジュビロード商店街にある「有限会社菊屋」である。

「菊屋」の前身にあたる「三島ふとん店」は、1952年、現社長・三島治さんの父親が開いた寝具店。戦後の物不足だった時代、安価で丈夫な化学繊維の出現などで、当時の寝具業界は隆盛を極めており、「三島ふとん店」の前にも連日人々が列をなした。

時を経て1978年、「三島ふとん店」は「有限会社菊屋」に店名変更。新たな出発を前に「改名セール」を始めた2日後、父親は病に倒れ急死。当時、三島さんは大学4年生。
「父は白血病で死の宣告を受けた時から、商売のあり方を考えていたようです。当時販売していた寝具は、ウレタンマットレスをはじめ、化学繊維を使用した間に合わせの寝具が多く、真の眠りによいのだろうかと疑問を持っていました」

三島さんは父亡き後、一度は東京で就職するが、翌1979年、故郷に戻り「菊屋」ののれんを継ぐことになった。

しかしその当時、「寝具専門店」はすでに社会的使命を終えようとしており、行列をなした人々もすでに姿を消していた。デパートやスーパーなど、他にも安くて手軽に寝具を買える場所がいろいろ出現しだしていた時代。「今までのやり方では、生き残りは厳しい…」そう実感しながらも打開策はなかなか見つからず、三島さんの二代目としての試行錯誤は10数年も続いた。

「健全なる精神は、安らかな睡眠に…」父親が遺した原点とは

苦悩の中で、三島さんに浮かんだひとつのひらめき…それは生前の父が目指した、理想的な睡眠。死の2年前、浜松に「能力開発研究所」なるものを開設した父親は「こころを空にすること、清い心で眠りにつくこと、眠りにつく前の心構え、一日のはじめ方」を考える「眠り」の啓蒙運動を展開していた。そしてウレタン寝具全盛期に、インドから高品質の綿を取り寄せて「本物ふとん」を製造・販売し、その信念を実践してもいた。

「売り上げや、成果は後からついてくるもの。寝具販売のプロとして、父親が目指した原点に還り、人々の『眠りの質の向上』に働きかけようと思ったんです」

そう覚悟を決め、まずは当時普及し始めていたインターネットを導入。広く人々に直接語りかける術を手に入れたのである。1996年、三島さんの40歳の誕生日であった。

ウェブサイトのコンセプトは「3つのS」。How to Sleep?(どうしたらよく眠れるか?)How to Be Sexy?(どうしたら楽しく眠れるか?)How to Super learn?(どうしたら賢く眠れるか)。

ネットショップを開き、枕など、三島さんがこだわって選んだ寝具の販売を始めた。毎週発行されるメールマガジンでは、商品情報だけでなく、三島さんの勉強の成果である「眠り」に関する情報を盛り込み、その考え方に共鳴する顧客を少しずつ増やしていった。

特に心がけたことは、顧客側の要望をすくいとるきめ細やかなウェブサイト運営。その中からやがて、菊屋に革命を起こすヒット商品が生まれることになる。
1998年、客の要望から、蚊帳の販売を開始。
「当初は他県から仕入れ販売をしており、売れる数も1シーズン25張り程度でした。しかしインターネットによる販売を毎年地道に続け、注文数量は倍、そのまた倍と急激に伸びていきました。ここ数年は1,000張りを超え、まだまだ伸びています。『蚊帳=ネット』の文化を“ネット”で取り戻したという感じです」

以来、三島さんは販売だけでなく、現代の生活にあったオリジナル蚊帳の製造も始めた。従来の和室用だけでなく、ベッドに合わせるものや、傘のように開ける簡易蚊帳、ムカデ対策用に床面にも生地がある六面体蚊帳『ムカデント』などのオリジナル製品が誕生。

2002年には、オリジナル生地として、従来の平織でなく縦糸を絡ませながら横糸を固定していく『カラミ織』を採用し、麻100%の風合いを保ったまま、風通しがよくしかも丸洗いが出来る画期的な蚊帳生地を開発した。

「蚊帳」で世界を変える! ちいさな布団店主の大きな野望とは

生地からこだわり、丁寧に作る蚊帳。最近流行の『スローライフ』の流れに乗り、購入する層も昔とは異なっているという。昔ながらの田舎、というよりは、都会の住宅地に住んでいる、子どもがいる若い家族が主な客層。冷房の風よけや安心感など、虫除け以外の効能が求められており、また、オーダーメイドで、浄化槽にかけるものや保育園で使う多人数用など、さまざまな用途の蚊帳を要望に合わせて作っている。

2005年7月には、店舗の近くに「蚊帳の博物館」を開館。蚊帳の歴史や文化を総合的に広めるアンテナの役割も果たしている。そして来年には「平和で、みんなが蚊帳のもとに集まるような、自然と調和した商品であるように」という願いをこめて、カラミ織を使用し新ブランド「菊紋和(きくもんなごみ)」を発売。売り上げの一部をアフリカのマラリア蚊撲滅に寄付し、社会貢献にも役立てるつもりだ。

「売り手にも買い手にも、そして、社会にも役立つ『三方よし』は、江戸時代の近江商人の精神ですが、これは21世紀の現代にも十分通用します。私は『蚊帳』と『眠り』のPRマンに徹して、皆さんに蚊帳のよさと質の良い眠りの大切さをアピールしたい。一人でも多くの人が穏やかに眠り、爽やかな朝を迎えられるようになれば、この殺伐とした世の中も少しずつ健やかになってゆくでしょう」

「蚊帳」で世界を変える! 静岡の小さなふとん店主の、大きな大きな野望である。