監修

ブランドロジスティクス有限会社
代表
小出 正三さん

1963年新潟県長岡市生まれ。
国際基督教大学教養学部社会科学科卒業。
株式会社大広に入社。
新規ビジネス開拓専門のマーケッターとして活躍。その間、競合プレゼンテーションの獲得4割を誇る。その後、株式会社マッキャンエリクソン、オグルヴィ・アンド・メイザー・ジャパン株式会社などの外資広告代理店に勤務。
2000年、当時としては国内では数少ない「ブランドマネージメント専門のコンサルティング会社」ブランドロジスティクス有限会社を設立。
日本有数のトップ企業から、新進のドットコム企業まで幅広いビジネスのブランド開発に関わる。

モノづくりから脱却してお客様づくりを目指せ


今まで、特に日本の企業においては、ブランドというと「モノづくり」のように捉えられてきた。その理由としては、まともなモノを作れるという技術が希少で、お客様もその「安心感や信頼性」を求めていたからである。そのため、モノづくりブランド全盛時は「企業ブランド」や「製品ブランド」こそがブランドと、こぞって各企業はモノづくりブランドをとりいれた。

しかし、現在はその価値観が通用しにくくなっている。アジア経済の発展に伴い韓国や中国でも、今までの日本ブランドのような“まともなモノ”は十分つくれてしまう。そのため「安心感や信頼感」による希少性というのは、なくなったと考えるべきだろう。


トヨタのブランド指向
自動車メーカーとして日本一の企業であるトヨタが、レクサスという“高級車のブランド”を立ち上げた。今までトヨタは“実質的で安心感のある自動車”を提供して、安心で信用できる企業の代表格だったはずだ。それが、レクサスを打ち出したのは、トヨタもモノづくりからの、さらなる発展を見据えているからである。いままでの“良いモノ=トヨタの車”から、レクサスにおいては“良い客=新しい日本のビジネスエリート”とお客様をつくるビジネスを始めだしたのである。

このトヨタにおける方針転換こそが、ブランドの指向が変わってきていることの証明である。つまり、いまの時代に重要なのは「良いモノをつくる能力」だけではなく、これからは自分たちの核となる「良い客をつくる(見定める)能力」こそが鍵になってくるのである。いかにお客様を取り入れていけるか、どうやって自分たちの土俵に入れさせるかが、これからブランドに取り組む会社が目指すべき方向になるだろう。

基本ブランドのパワーバランス



iPodがウォークマンの牙城を破った理由


■業界をリードしてきたウォークマン

日本発の製品ブランドであるソニーの携帯型音楽プレイヤー「ウォークマン」は1979年の発売で大ヒットを記録してから長い間その市場でNo.1の地位を保ってきた。それはデジタルコンテンツが全盛を迎えて、次世代の携帯型音楽プレイヤーにそれを生かしていく上で、商品ノウハウやブランドとしての価値が、他社に比べて圧倒的に優位だったはずである。









■iPodの登場とその革新性

しかし、現在の市場は米国のアップル社が打ち出した「iPod」に短期間の内にそのNo.1の地位を奪われている。それでは、なぜiPodは日本で、強いてはソニーで生まれなかったのか?
それは、日本人が「製品」や「会社」こそが、ブランドの対象だと狭く考えているせいではないだろうか。iPodに対抗するために他社が仕掛けている宣伝は「50時間連続再生、2GBの容量」など商品スペックが前面に出されていた。

一方、iPodはどうだったか。iPodというブランドは、楽曲配信サービスである“iTunes Music Shop”、パソコンとの連携で、ジュークボックスの役割になる“iTunes”、そして、iTunesからほぼ無料で情報配信サービスを受けられて、最新の情報を自動で受信できるPodcasting、それからiPod本体の製品になる。さらに、他社がiPodの周辺機器を出せるように「iPodエコノミー」としてiPodビジネスの内側に組み込んでいるのである。

■ビジネスをブランド化したiPod

ウォークマンはあくまで「製品」に特化したブランドで、そこからのブランディングがなく、ウォークマンという単体の製品世界で収まってしまっている。

しかし、iPodは「楽曲配信から始まって、個人が装身具のように音楽を身にまとうまでの一連の流れ」を対象にしたブランドで、「製品」「サービス」「ファッション」などが最初から一つに組み込まれているのである。
基本の3つのブランド「企業」、「製品」「お客様」の発展した形として、いまはビジネスそのものにブランド名を付けて大きく成長することが可能なのである。

iPodというビジネスの中心には、製品ではなく「人(とその生活)」がある。お客様を中心にしたことが、iPodの発展につながっている。

お客様ブランドが中小企業にとって成功の鍵!!

ブランドは前項のように今までの常識である「企業」「製品」から発展している。iPodは製品を超えてビジネスを指しているが、その発想の源には「お客様」を考えたビジネスプランがある。その意味でも、いまの時代で最も強くなるブランドは「お客様ブランド」になっていくだろう。
「お客様ブランド」が有効な今の時代は中小企業にとっても、大企業と対等以上にブランド戦略を打ち立てるチャンスが拡がっている。中小企業にとって有効なのは「特定のお客様だけに、その人だけに許された贅沢を、より高い価格で」のようにお客様を特定してのブランド展開がしやすいことだろう。

「より安く、より多い人に、より多くのモノを」が最も有効とされていたときは、“有名”を目指しても、資本力や生産力で大企業にかなわなかったため、ブランド力は中小企業にとって遠い存在だったかもしれない。

しかし、「お客様ブランド」が有効な今は、お客様を“指名”して、こちらの土俵で戦う戦略が可能なのである。そして、お客様が何を望んでいるのか、何を欲しているのかを知るには、現場と会社のトップが近くて、小回りが効く中小企業のほうが有利なのである。

ユニクロのコンセプト
「ユニクロは、あらゆる人が良いカジュアルを着られるようにすることを目指してきました。個性は服にではなく着る人にあり、着る人が自分で組み合わせて、初めてその人の個性を表現できる。服とはいわば汎用部品だと考えています。歴史を振り返ってみると、当初はステータスや階級を表すものだった服は、今や自由に誰でも着られる服に変わってきました。これがまさにカジュアルです。カジュアルは人々の日常生活を快適に過ごすための服なのです。」

上記のコメントは、お客様ブランドの代表として日本でも大きく成功した会社「ユニクロ」の柳井CEOの言葉である。

ユニクロの強みは「主役はお客様、自分たちはお客様のサポーター」であることを明確にした点にある。それを基本コンセプトにして「価格」「品質」「デザイン」「接客」に至るまでのユニクロブランドを組み立てたのである。

「価値を主張するのは、モノではなく、お客様」これを実践してブランド経営を発想していくことが、これからのブランド戦略に不可欠になっていくのである。