監修

株式会社インソース
代表
舟橋 孝之さん

1988年、株式会社三和銀行(現:株式会社三菱東京UFJ銀行)入行。システム部門にて顧客分析システム、テレマーケティングシステム開発を担当。テレフォンバンキング、iモードバンキング、コンビニバンキング等の企画開発、FC展開の店頭公開流通業の新規事業開発部長などを経て、2002年に人材教育・研修会社「株式会社インソース」を設立。現在に至る。調査→研修→定着化をトータルに行うプログラムにより、多くの官公庁および大手企業の研修実績を持つ。

会社HP http://www.insource.co.jp/


時代の変化が生んだ2つのトラブル例

ケータイ化、ネット化、そしてコンビニ化によって、クレーム数は飛躍的に増大し、クレームの質も多様化していることは第1回、第2回を通じて紹介してきた。

では、現在、どのような内容のクレームが増えているのだろうか。また、その種のクレームに対してどのような対応をするべきなのだろうか。クレーム研修で数々の実績を上げてきた株式会社インソースの舟橋さんに聞いた。

ネット通販の配送トラブル

インターネット・携帯電話によるeコマースが普及し、この種のトラブルが非常に増えている。

例えば「女性が下着など個人の趣味や嗜好がよくわかる商品を隣の家に配達されてしまい、さらにその商品が隣の家の主婦に開けられてしまった…」というケースが挙げられる。

「大変なのは、そこに人間関係が絡んでいるからです」と舟橋さんは言う。隣同士、実は陰でお互いに悪口を言い合うような関係であった場合、単に「誤配」という以上の大きなクレーム問題に発展してしまうのだそうだ。

対処法
舟橋さんいわく「対処法としては、まず基本手順1『相手の心情を理解する』、さらに基本手順2『事実を確認する』、そして基本手順3『解決策あるいは代替案を提示する』を、順序良く行うことになります」とのこと(詳細は第2回を参照)。



さらに「配送の分業化・外部委託などをしている場合には、現状の見直しも検討すべき」なのだそうだ。「自社の商品をお客さまに確実に届けたい」という思いがあるか否かで、この種のケアレスミスが防げるからだ。「お客さまの名前を明記したメッセージカードを商品の外箱につける」など、開封する前に誤配に気づいてもらえる“予防策”も考えていくと良い。




高額商品購入後のトラブル

「命に関わること、商品が高額であること。いつの時代においても、この2つに関してお客さまは非常にナーバスになるものです」と舟橋さんが言うように、高額商品を購入する場合、商品に対するお客さまの思い入れは非常に高い。とくに近年は、インターネットの普及や国内外の判例などにより「買い手がクレームを主張する」という考え方が高まってきたため、高額商品を買った後のトラブルが増えているようだ。およそ200万円という数字が高額商品の目安となるようで、「車やマンションについてはもちろんですが、さらに今後は株など『将来への投資商品』に対するクレームも増えてくるかもしれませんね」(舟橋さん)とのこと。

対処法
基本手順1〜3を守ることは大前提なのだが、「このケースは特に『人間力』が求められているんです」と舟橋さんは言う。究極の解決法の1つは「あなたがそこまで言うんだったら仕方がないね」というように、自分の“人柄”で納得していただくことである。高額商品クレームの対応にはそこまでの高いレベルが求められる。



対処のポイントは2つ。1つは時間をかけて説得すること。基本手順1〜3を根気よく繰り返しながら、こちらの誠意を伝えることが大切だ。2つめは、肩書きの高い方や年長者が対応にあたること。相手の心情の背景を汲み取る力を備えているとともに、クレーム相手にも「自分が大事にされている」といった印象を与えられるからである。

「お互いさま」という言葉は、今や死語?

注目の傾向「かみつきクレーム」とは?

「最近は『かみつきクレーム』が増えているんですよ」と、舟橋さんは言う。
保育所で隣に寝ていた赤ちゃんに我が子がかみつかれた、ある母親のはなし。保育士は、この母親にお詫びをした上で、歯が生える頃の赤ちゃんにはよくあることだという説明をしたが、母親は納得する様子もなく、保育士に対して大クレーム。

「この例は、つい最近までは存在していた『お互いさま』という概念が消失してしまったことを顕著に表していますよね」と舟橋さんは語る。赤ちゃんの場合、子供同士で噛み合うというのは、成長の過程で見られることだそうで、もしもそこに「お互いさま」という気持ちが存在していれば「ウチの子も他の赤ちゃんを噛んでいるかもしれない…」という想像をして、ある程度のことは許せるはずだ。

このように、相手の立場や状況を想像しないために生じてしまうクレーム問題も、業種・業界を問わず非常に増えている。そのため、基本手順1〜3を守ることはもちろんだが、万が一の訴訟など最悪の事態にも備えて事実をよく聞き出し、メモを取ることを怠らないようにしたい。

「あと半日は復旧しません」とは伝えにくいが…

さらに「今の時代は『潔さ』が1つの重要なキーワードになっているのではないでしょうか」と舟橋さんは語り、クレーム処理の一例を挙げてくれた。
ある交通企業が、自社の非によって事故が起こり、サービス停止を余儀なくされてしまった。その際、利用客には自社の落ち度でこのような事態を起こしてしまったことをまずお詫びした上で「あと半日は復旧しません」と伝えたのである。復旧作業に大幅な時間がかかったにも関わらず、大きな混乱を避けることが出来たそうだ。

「これは、お客さまの『コスト』をいかに減らすかを第一義に考えて行動したことがお客様に理解され、評価された好例です」と舟橋さんは言う。
お客さまのコストとは、いつ復旧するのかわからない中で自分は何をどうしなければいけないのかという不安・精神的負担を指している。クレームを恐れず、復旧時刻をしっかりと伝えたことで、お客さまが各自適切な行動を取ることが出来たのである。

「今年に入って松下電器産業の石油暖房機の回収問題がありましたが、テレビや新聞を通してあそこまで告知をする松下さんの企業姿勢を見て『この会社はやっぱりすごいな』と感じた経営者の方は多いのではないでしょうか。問題に対してどれだけ誠心誠意対処しているかが問われる時代なのです」(舟橋さん)

クレームが100分の1に激減!した「奇跡の企業」とは?

だが、このような大クレーム時代の中で、「クレーム件数を数年前の100分の1に減らした食品メーカーがありますよ」と舟橋さんは言う。
その企業が導入し、クレームを劇的に減少させた方法、それが「クレーム対応会議」である。

クレーム対応会議とは、「今月起こったクレーム」というテーマのもと、現場の人間が集まり、クレームを受けた人物が、
「どのようなクレームが/どのように起こったのか」
を毎月1回発表する会議である。

「大切なことは、部署の違う人間も他人事だと思わずにクレームの内容を共有すること、そしてその場でできる限り解決策を考えることです」と舟橋さんは言う。クレーム問題は深刻なため、共有する機会さえあれば、当事者は同僚たちに真剣に内容を伝えようとする。

そのため、同僚への話の浸透度も高いのである。舟橋さんいわく、1回数時間・3ヶ月開催すると大きな効果が現れるそうなので、ぜひトライしてみてはいかがだろうか。

ちなみに、クレーム件数を100分の1に減らした食品メーカーは、クレーム対応会議で「商品トラブルがあった場合、全国どこにでも6時間以内に取替商品を届ける」という決まりを作り、実践したのだそうだ。クレーム共有会議というのは、社内のルール、規範、品質管理などの見直し・底上げをする会議なのである。