成田 一正

【プロフィール】
明治大学経営学部卒業。
東京国税局(国税専門官第5期)を経て監査法人太田哲三事務所(現新日本監査法人)で商法・証券取引法による法定監査を担当。
その後太田マネージメントサービス(現新日本アーンストアンドヤング(株))にて、主に未公開会社の株式公開への税務関係サポート業務を担当。
平成元年成田公認会計士事務所を設立。 法人税・資産税関係の特殊会計業務を中心に業務を行っている。
現在、日本税務会計学会副学会長。

中小企業の事業承継が変わる
自民党では中小企業の事業承継に関わる法律と税制の見直しが進んでいます。12月13日の与党税制改正大綱でも明らかになりましたが、「中小企業の事業の継続の円滑化に関する法律(仮称)」の制定を予定して進めているようです。税制では平成21年度では、相続税の抜本的な改革まで予想されています。いまの時点では詳細にどこまで変わるのか明確ではありませんが、どのような議論が行われているのかという点から、事業承継対策の重要性を検討してまいります。
なぜ、事業承継という問題が必要になったのでしょうか

第二次大戦前の民法では家督相続という方式で、長男が家を相続する方式でした。戸籍も戸主がいて、その次から姉、弟、妹というように「家制度」が採用されていました。しかし、戦後の新しい民法は、「家制度」を廃止して兄弟は皆平等という考え方に徹するようになりました。

日本の中小企業は、ほとんどが「家業」といわれているように、経営者の個人的な能力により発展してきたと言っても過言ではありません。その子息は子どものころから経営者の父親の背中を見て育ってきました。もちろん経営には向いていない、もしくは望んでいない子息もいますが、中小企業の場合には、その子息が跡取りとして育ち、次の経営をバトンタッチしていくことが、もっともスムースに企業を維持成長させていくことは変わりありません。

均分相続の問題点

わが国の民法は均分相続が基本となっていますが、これが事業承継にとって、大きな問題となっています。なぜでしょうか?

毎日、中小企業の経営に勤しんでいる真面目な経営者は、余計な財産を持つゆとりがありません。相続が発生するような時まで、一生懸命仕事をして残した財産は、自宅と自社株式それとその他の少々の財産というパターンがほとんどです。問題はこの自社株式の評価なのです。

自社株式に財産を注ぎ込んだ結果、会社は本社工場も自前で持つことができ、また剰余金もそこそこになりました。これらは業務用の財産であり、経営者の個人の財産ではありません。しかし、これらのものを時価評価した自社株式は、民法も税法も個人財産とみています。

遺産分割で「弟なのになぜ自分だけ独り占めするの」という意見が姉から出てくると、反論ができなくなり、法律上もこの姉と妹の意見が通ることになってしまいます。姉や妹は自社株式がほしいのではなく、金銭がほしいので、自社株式を相続して安定した経営を進めることは均分相続ではできなくなります。

遺言の重要性

そこで、オーナー経営者は遺言を書くことにより、法定相続分ではなく、自分の意思により自社株式を後継者に相続させることが可能となります。自社株式が遺産の多くを占めるような場合には、必ず遺言を書いて、法定相続分ではない遺産配分をする必要があります。

しかし、ここにも「遺留分」という大きな問題があります。法定相続人には遺言によっても侵害されない相続分が民法上も保証されています。遺留分とは、先の兄弟の例ですと法定相続分の半分が遺留分になります。そこで、自社株式の評価が高いケースでは、遺言書いても遺留分を侵害するようなことはできません。これでは、オーナー経営者の意向が反映されたことにはなりません。しかし、民法で決められたことなので、これは受けざるを得ないことで、こまったことでした。

持ち戻し計算

そのうえ、この遺留分の計算には大きな問題点があります。それは、「生前贈与財産の持ち戻し」です。遺留分があるのは相続財産ならば、相続の前にどんどん贈与してしまえば、遺留分なんて関係ないと思われるかもしれません。しかし、遺留分を計算する財産は、この生前贈与財産も含まれてしまうのです。ちょっと信じられないかもしれませんが、5年前でも10年前の生前贈与財産でも、含まれてしまいます。その上、金額は相続が発生した時の時価に置き直すことにもなっています。これでは、生前に株式を贈与することにより、経営権を委譲した経営者も安心することはできません。

遺留分の放棄制度

後継者に自社株式をスムースに相続させる方法の一つに、「遺留分の放棄制度」があります。これは、経営に関係のない姉や妹に「遺留分」を放棄させ、相続発生後もスムースに自社株式が後継者に相続させることができるという制度です。しかし、この制度は事前に姉や妹に生前贈与を行い、かつ家庭裁判所の許可がなければ「遺留分の放棄」は有効ではありません。

特別法の制定へ

事業承継を考える上での必要性を3点述べました。

(1)
民法の兄弟均分相続〜これは遺言を書くことにより、原則解決はしますから、遺言は必ず必要です。
(2)
遺留分の減殺請求の問題〜これはなかなかやっかいの問題です。事前に遺留分の放棄をしてもらうことが可能ならば、それがもっともよいでしょう。
(3)
そして、相続財産に占める自社株式の評価が高いという問題です。

これらについて、次のような対応が予定されています。民法を変更するということはたいへんなことですから、ここは特別法を制定することにより、円滑な事業承継に資することを目標としています。

  • まずは、最終的な裁判所の関与を前提としつつ、契約締結段階で公証人が関与すること等により、現行の遺留分放棄手続を比して簡素なものとする。
  • 契約によって贈与された財産を、全遺留分権利者の遺留分算定基礎財産及び減殺請求の対象から除外する。
  • 遺留分算定の基礎財産を算出する際に、後継者の貢献を反映させるため、一定の要件を満たす場合には、生前贈与された自社株式の評価額を贈与時のものとすることを認容する。
税制の対応

現在、中小企業庁は平成20年度税制改正で自社株式の評価を80%まで減額してほしいという要望を出しています。もうすぐ、結論は出るものと思われますが、多少なりとも、この特別措置に準拠するできるならば、民法上の問題点と同時に、事業承継の後継者の負担が減少することになるでしょう。