フィルムファイナンスの背景
米国においては、知的財産権の価値を評価して積極的に融資が行われています。その一例に「フィルムファイナンス」と呼ばれるものがあります。フィルムファイナンスは、ネガティブピックアップとも呼ばれますが、映画製作プロジェクトにおける資金調達手段です。米国では通常、映画の製作会社と配給会社が分離しており、製作会社は映画の完成までの資金を自ら調達する必要があります。
フィルムファイナンスは、プロジェクトファイナンスの一類型と考えることができますが、通常のプロジェクトファイナンスであれば「ノンリコース」といって、仮に事業が失敗した場合でも、事業者が追加的な財務的負担を免れるのが普通です。この場合には、資金を貸し手は事業が失敗した場合には、その失敗事業に関する資産を担保処分できるのみ、という大きなリスクを取る必要があります。
まず、製作会社は、配給会社との間で取り交わした配給契約書を銀行等の金融機関に差し入れて、製作資金を調達します。この際、映画制作の完成に関して、完成保証会社が金融機関に対して映画フィルムの完成を保証することで、いわば保険をかけた状態となります。映画が完成しないというリスクを完成保障会社が取ることで事業リスクがコントロールされており、金融機関は製作会社の信用リスクだけを取ればよいため、通常のプロジェクトファイナンスと比較して資金を貸しやすくなっています。
莫大な製作資金を投入したハリウッド映画が、次々に生み出されている背景には、こういった資金調達のための仕組みがあるということです。
わが国のコンテンツビジネスにおける資金調達の動き
わが国には、映画の完成保障会社が存在しないなどの理由によりハリウッドスタイルの資金調達は行われておらず、従来、製作委員会制度を中心に映画制作が行われてきました。
近年、アニメーション映画「千と千尋の神隠し」がアカデミー賞を獲得し、ゲームソフトなどのコンテンツが海外で人気を集めるなどしまして、コンテンツビジネスは日本が世界に誇れる独自の産業だ、などと注目されています。
そこで最近では、コンテンツビジネス業界における資金調達の仕組みが工夫され、ファンド型の資金調達の道が模索されています。
たとえば、ジャパンデジタルコンテンツ(JDC)社(当時)はコンテンツ制作者に資金調達・流通のアレンジメント・著作権の保護を提供することを目的に設立され、以前から積極的にコンテンツへの投資スキームを開発していますが、その代表的なものとして「東京マルチメディアファンド」があります。
これは、まず民法上の組合によりファンドTMF1を設立し、さらにTMF1の業務執行組合員であるJDCが匿名組合員、コンテンツ制作会社が営業者として匿名組合契約を結ぶことにより、コンテンツ制作会社に制作資金が提供されるものです。その後、コンテンツ制作によって得られた収益は、投資額の100%まではファンドが優先して回収しますが、その後は、一定の割合でコンテンツ製作者とファンドとが配分することになります。そして、投資額の300%まで投資の回収が終われば、ファンドは解消されるというものです。
JDCは2003年12月に、ベストセラー児童書「かいけつゾロリ」のテレビアニメ製作プロジェクトにおいて、SPCを利用したスキームを実現させました。同社は、SPC方式には@著作権の集中管理による機動的な権利行使、A財産の独立性確保、B事業収支の透明性向上などのメリットがある、としています。さらに、2004年7月にはアニメ作品「バジリスク」への投資ファンド(総額2億4,000万円)への投資募集を開始するなど、コンテンツビジネスにおける資金調達を考える上で、投資ファンドの動きからは目が離せません。