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執筆者の紹介


執筆者:中村 政人氏



プロフィール


1963年秋田県大館市生まれ

東京藝術大学大学院美術研究科修了。
韓国弘益大学大学院満期修了。
「美術と社会」「美術と教育」との関わりをテーマに様々なアート・プロジェクトを進める社会派アーティスト。
韓国(1990-1992)、香港(1997)への留学を経験。第49回ヴェネツィア・ビエンナーレでは日本代表作家として参加し国際的にも注目を集める(2002)。現在、アーティスト・イニシアティブ・コマンドNを主宰。2003年から東京藝術大学絵画科准教授として実際に美術教育にも携わる。
近年は、2005年にプロジェクトスペースKANDADA(東京千代田区神田錦町)を立上げた他、富山県氷見市での「ヒミング」や秋田県大館市での
「ゼロダテ」など、地域再生型のアートプロジェクトを企画制作する。文化力、地域力を創造する新しいアートアクティビストと言える。














富山県氷見市におけるサスティナブルアートプロジェクト
ヒミング・2007 風と聞く氷見、水と描く氷見【前編】

 

 

 富山県氷見市において、地域のサスティナブルアイデンティティを発見し創造していくアートプロジェクト、「ヒミング/2007」が開催されました。氷見での創造的な市民活動として少しずつ育ってきたこのプロジェクトは5年目を迎えています。「ヒミング」とは「氷見(ひみ)+ハミング」とした造語であり、ヒミという響きとハミングの持つ調和、リズム感、平和などのイメージを大切に、氷見を感じ、楽しみ、何かを創り出すアクティビティを勇気づける気持ちでネーミングされています。
 このアートプロジェクトの特徴は、地域との関わりを「発見→計画→実現」というアーティストの作品制作プロセスにシンクロするように活動ビジョンを構築しているという点です。一見価値がないと思われているものに、新しい価値を生み出していく創造プロセスを重視しています。
まず、地域アイデンティティの「発見」を促す活動として「氷見クリック」という映像表現を主軸としたプロジェクトが行われています。
「氷見クリック」とは、アーティストが地域資源を素材として映像作品を滞在制作
するプロジェクトです。アーティストが何を素材としテーマを選び、撮影、編集するのか?ライブ演奏に近い生々しい映像制作体験から生み出される作品には、地域に眠る多くの可能性が映し出されます。

伊藤敦作品「空と海の間」 9'53"(45.5MB)
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 では、氷見クリック作品を一部ご紹介します。


伊藤敦作品 

 2004年から今年で4回目の出品をしている伊藤敦は、紙飛行機や、赤風船を使い市内各所をストリー展開に取り入れる手法で撮影を行った作品や、水中にカメラを設置し、水中から見える氷見の風景を撮影、オリジナルの楽曲とともに、異次元的視点から氷見を表現した作品を発表しています。2005年に牛島均が制作した作品は、氷見市沖 300mに位置する唐島に天馬船でちょっとした冒険に出かけるという作品を発表しました。この作品が契機となり船大工の番匠光昭さんとヒミングとの出会いが生まれ、その後天馬船プロジェクトへと繋がっています。


ウシジマヒトシ「唐島へ」10'57"(50.2.MB)
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 ヒミングの運営にも初回から携わっている宍戸遊美は、能登半島を縦断する高速道路により分断される地域や、新たな開発によって消えてしまう何気ない日常的な風景をゆっくりと読み解くことにより、その地に潜むゲニウスロキを視覚化しようとしています。氷見市出身であるドキュメンタリー映画監督である鎌仲ひとみは、森と海の相互の視点から「森は海の恋人」というテーマでインタビューをおこない、定置網など海から大きな幸を得ている氷見だからこそ、森の環境をまもることの大切さを説いた映像作品を制作しています。


鎌仲ひとみ作品

 地域での問題が、世界の問題に直結しているという事実を改めて感じさせられます。他にも様々なアプローチで制作された映像作品には、氷見を体験したからこそ見いだされたた魅力的な表現の動機がちりばめられています。
つまり、地域アイデンティティとなる要素を「気づき」そして「発見」を促するプログラムとしてアーティストの視点、思考、表現活動が機能することとなっています。

鎌仲ひとみ作品

また、氷見クリックでは上映会場を阿尾の番屋、北大町海浜埋立地、商店街、国見天空平と意識的に変えています。

各会場に出向き、ゆっくりとした時間を過ごし周辺環境を楽しみ、そこでしか見ることのできない新鮮な映像作品を鑑賞するという空間体験は、新しいスローな地域メディアとしての可能性を秘めています。素速く大勢に伝える事ではなく、ゆっくり身近な人に伝える事で初めて発見される価値に気づきます。
フイルムコミッションによって地域が注目を得る事は、映画制作のプロセスに対して地域資源を開放していく方法であるが、氷見クリックでの試みは、地域のアイデンティティを再発見するために、映像制作のプロセスそのものをアーティストに開放する事と言えます。


問題は、気づき・発見された地域のサスティナブルアイデンティティは、何を求め、実現したいと思っているのか? その実現にはどのような計画が必要なのか? 一人の人間のアイデンティティが形成されていくプロセスと同様に、地域アイデンティティの形成プロセスを経済原理ではなくサスティナブルな本質的視点から捉えることが全てのプロセスに通じる価値基準となっていきます。


 次に「発見」から見えてきたビジョンを実現するための「計画」としてのアプローチについてお話しします。

 一つは、「天馬船プロジェクト」です。 昭和30年代、氷見の海上の足は漁業用の小舟=天馬船でした。しかし、


ミニ天馬船

FRP船の普及とともに木造和船は、ほとんど姿を消しました。「天馬船プロジェクト」とはその失われた木造和船文化の保存や造船技術の伝承を目的に、ミニ天馬船レースの川流しレースを行い資金をつのり本物の木造天馬船を復活させるプロジェクトです。ミニ天馬船レースは、氷見杉の間伐材を使用し制作された30cmほどの小舟を上庄川の流れに運をまかせ上流からゴールを目指しゆっくりと下流に流します。早くゴールした上位10艘ほどまで豪華地元特産品などの商品をもらう ことができます。参加は、年齢、地域を問わず、インターネットから1000円の協賛金で登録することが出来ます。


ミニ天馬船を制作する
ボランティアスタッフ

2006年は約900艘、2007年は約600艘のミニ天馬船への参加登録がありました。2年間で約150万円の協賛金が集まったことになります。この資金から運営経費を除いた80万円が本物の天馬船を制作する資金として船大工の番匠光昭を中心とした制作チームに委ねられます。 氷見クリックで「発見」された天馬船の魅力から本物の天馬船を制作したいという「計画」=天馬船プロジェクトが始まりました。2年間行い、来年、本物の天馬船が1艘制作される予定です。

氷見市上庄川
天馬船レーススタート直後
プロジェクトの概要
天馬船レース入賞者
ヒミングブログで実況報告

天馬船乗船体験


「計画から実現」へのアプローチは、この新たに制作される本物の天馬船でのレース、遊覧体験を定期的におこない、また造船技術を伝授するための学校を立ち上げることです。そして若い船大工が制作する天馬船が木造和船文化の保存に活用され、観光資源としても魅力的な資源として活用されることが期待されます。