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執筆者の紹介


執筆者:永田 裕氏



プロフィール


岩手県遠野市生まれ


遠野市政策企画室


平成8年遠野市職員採用。税務課、教育委員会事務局、岩手県総合政策室(インターン)の後、遠野市政策企画室、産業振興課等で、「どぶろく特区」「遠野ツーリズム」に取り組む。現在、政策企画室で市長秘書を担当。

著書・共著「遠野スタイル」(株式会社ぎょうせい、2004年10月)、「伝統を生かして地域の活性化を図る」(株式会社昭和堂、「農業と経済」2003年5月号に掲載)、「遠野ツーリズムの新たな味付け「どぶろく特区」」(農林漁業金融公庫、「公庫月報」平成16年11月号)がある。




小さなまちの小さな挑戦を続ける遠野市

「まちづくり」という言葉には、いろいろな意味が込められています。遠野市のまちづくりは、郷土の先達が残してくれた歴史や文化を大切にしながら、官民一体となって取り組まれています。

今回は、小さなまちの小さな挑戦を続ける遠野市の取り組みをご紹介します。

■岩手県遠野市

 日本地図を広げてみると、岩手県って山が多いと改めて気付かされます。遠野市は、この岩手県を縦断する北上高地のほぼ中央に位置する盆地のまち。藩政時代は、遠野南部家1万2千石の城下町として、岩手の内陸と沿岸を結ぶ交通の要所として栄えたと言われています。

 遠野市内を地図で眺めてみると、地図の中心に遠野駅をはじめとする中心市街地があり、「町場(まちば)」と呼ばれる区域があります。また、その町場を囲むように在郷(ざいごう)の集落が点在しています。地理的に遠野市は、北上高地の山々に囲まれており、ある意味、遠野市自体が一種の小宇宙を構成していると捉えることができます。

遠野の地図(画像クリックで拡大)

■遠野スタイル

  遠野市は、柳田國男の名著『遠野物語』の舞台としても、その名が知られるようになりました。この『遠野物語』の序文に、「遠野郷にはこの類の物語なほ数百件あるならん。」とあるとおり、数多くの話が遠野には残っています。今でも遠野の昔っこ(昔話)は、語り部のみなさんから聴くことができます。

※ホームページ
http://www.tonojikan.jp/japan/kanko/shisetu/hakubutukan.html

『遠野物語』序文には「路傍に石塔の多きこと諸国その比を知らず。」とあります。今でも遠野の道端では、数多くの石塔を確認することができます。このように、先達が大切に守り続けてきた地元の財産(たから)をまた次へ継承することを貴いとする遠野人の感性は、現在の遠野市の地域づくりの基になっていると私は思います。


(土淵の石塔)


■遠野町家のひなまつり

 中心市街地活性化・・・全国の中小都市が抱える課題のようですが、遠野市も例外ではありません。元気がなくなってきた商店街に、再び活気を呼び戻す方法はないかと検討したところ、遠野の町場では昔から代々続いている商家・旧家が数多くあり、歴史あるひな人形を大切に保存しているという事が分かりました。


 その昔、雛人形は一部の家でしか所有できず、「おひなさま 見せておぐれんせ」といって女性が雛人形を見て回る風習があったといいます。この昔ながらの風習を遠野商工会女性部や商店街の女将さん達が中心となって復活させたのが「遠野町家のひなまつり」です。


今では50軒を超える商家・旧家が参加し、毎年2月下旬から3月上旬の短い期間の限定イベントではありますが、3万人を超える来場者を数えるまでに至りました。



※今年の「遠野町家のひなまつり」の開催期間 2/29〜3/4
http://www.tonojikan.jp/japan/main/hinamaturi/hinamaturi.html


■昔話とファンタジー

 毎年2月上旬に、遠野では2つの催しが開催されます。
遠野昔ばなし祭りは、「むがし(昔)、あったずもな・・・」で始まる語り部による生の遠野の昔っこ(昔話)を囲炉裏を囲んで楽しめます。



第25回遠野昔ばなし祭り

同じ日に、遠野市民センターでは、市民の舞台「遠野物語ファンタジー」が開催されます。遠野の昔話や歴史を題材に、脚本、音楽をはじめ、市民の手作りによる舞台です。

※遠野物語ファンタジー
http://www.city.tono.iwate.jp/index.cfm/20,0,87,html

遠野を散策すると、至る所にカッパや座敷わらしが潜んでいます。
ほんの一例ですが、遠野駅の駅前交番は、よく見るとカッパの顔になっています。
まだまだ、昔っこの登場人物?が隠れていますので、遠野にお越しの際は、是非探してみてください。

■どべっこ祭り

 遠野市は、「どぶろく特区」に認定されています。「どべっこ」はどぶろくを意味する言葉です。遠野市が、どぶろく特区にはじめて取り組んだ際、好奇の注目を浴びました。本当は、遠野市がどぶろく特区に取り組んだ背景には、食文化の復活があります。ふるさと、田舎、地方の食文化として、完全に断ち切ってしまうのではなく、ささやかながらも次に繋いでいきたい。そんな思いがありました。

  また、どぶろくは、農家の手造りのお酒です。100年ぶりのどぶろく復活を手懸けた農家民宿MILK−INN江川の御主人江川幸男さんは、こう言います。「造る場所、造る人、造る季節が違えば、出来上がる酒も違ってくる。この違いが、どぶろくの楽しみの一つ。」だと。大量生産された均質なモノとは違い、ひとつひとつの個性が光るどぶろくには、 多様性を再認識させられます。
 


 遠野ふるさと村では、毎冬「遠野どべっこ祭り」を催し、多くの観光客にどぶろくを楽しんでいただいております。


 どべっこ祭りの魅力は、どぶろくだけに限りません。どべっこ祭りでは、地元の方々による「守り人(まぶりっと)衆」が、お手伝いをしています。村を訪れる観光客は、守り人の方々との昔の生活の様子などの会話を酒の肴に、どべっこ祭りを楽しんでいるようです。遠野ふるさと村をお尋ねの際は、ぜひ話かけてみてください。

※遠野ふるさと村
http://www.tono-furusato.jp/

(どぶろくが楽しめる宿)
※農家民宿MILK−INN江川
http://www.milk-inn-egawa.com/

※民宿とおの
http://www.minshuku-tono.com/

■遠野に吹く追い風


 去年は、遠野に強い追い風が吹きました。
その一例ですが、NHKの朝の連続テレビ小説『どんど晴れ』。物語の舞台は盛岡ですが、“座敷わらし”など遠野の持つイメージが様々な場面で用いられ、実際にヒロイン役を演じる比嘉愛未さんらも訪れ、遠野の観光スポットでもある「遠野ふるさと村」や「カッパ淵」等で撮影も行われました。

※NHKドラマのホームページ http://www3.nhk.or.jp/drama/html_news_dondo.html

 また、長編アニメーション映画『河童のクゥと夏休み』では、都会で暮らす少年がカッパを探しに遠野を訪れる内容で、遠野の風景もよく描かれています。ただし、ストーリーの中では、遠野の座敷わらしは登場しましたが、遠野のカッパは最後まで登場しませんでしたけど・・・
 このアニメーションの中でも、遠野駅前やカッパ淵がよく描写されていました。

※河童のクゥと夏休みのホームページ
http://www.kappa-coo.com/


 この機会にぜひ一度遠野を訪れて、これらの作品の縁の場所を訪問してみてはいかがでしょうか?


※遠野市観光協会のホームページ
http://www.tonojikan.jp/


■遠野ブランド

 遠野の地名を聞いて、「ふるさと」というキーワードを連想される方は、今は少なくないようです。遠野に対する地域イメージは非常にいいものの、地元経済と有機的に結びついているとは決して言えません。


 そこで、昨年「遠野市・観光と連携した遠野食品ブランド化調査」を、東北産業活性化センターと一緒に行いました。生産者、観光施設、小売店が連携しながら、遠野に関する食品の商品ブランド化について検討が進められています。

 

※東北産業活性化センターのホームページ
http://www.ivict.or.jp/


 また、遠野商工会では、地元商品の認証ブランド化も手懸けています。「トネーゼ」とは、イタリア語で「遠野人」を意味します。トネーゼは、遠野の商品のほか、観光などサービスもその認証の対象としています。

※日本のふるさと遠野ブランドのホームページ
http://www.shokokai.com/tohno/tohnese/top.html

 地域のお宝は、ブランドだけに限りません。地域の誇りを再認識するしくみも、地域住民の心の活性化につながります。
 


遠野の町方を代表する郷土芸能「南部ばやし」 

「世界遺産があるならば、遠野遺産があってもいいじゃないか。」遠野市では、2007年4月から遠野遺産認定制度をスタートさせています。遠野では、数多くの郷土芸能が今も残っています。神楽、しし踊り、手踊り、囃子など、多種多様な芸能が、「日本のふるさと遠野まつり」で披露され、遠野の秋を彩ります。また、地元にある小さなほこらにも、歴史や所以があります。これら地域の財産に改めて目を向けるきっかけにつながっています。

遠野遺産ホームページ
              


■おわりに


 今、限界集落が話題になっています。どんな小さい地域でも、その地域ならではの歴史や文化があるはずです。その歴史・文化を、今風に言えば「地域資源」としてどう活かすのかが、私たちの課題なのかもしれません。
 また、昨今「都市と農村の交流」も大きな話題になっています。大きな視点ですと、東京を中心とする大都市と、遠野のような地方の交流と捉えることができます。一方、遠野という小さな地域の中にも都市と農村の交流があります。町場と呼ばれる中心市街地と、在郷と呼ばれる周辺の集落とが、空間的に繋がり合って、地域が成り立ちます。


 遠野市の本田敏秋市長は、職員にこう言い聞かせています。「古くて古いものは滅ぶ。古くて新しいものが光輝く。」と。過去に培われた知恵や財産をそのままにしておくのではなく、今いる私たちがそれを活かすための知恵を絞り、未来につなげることの重要性を指摘しているのだと思います。過去と現在という時間的な繋がり合うことで、地域の活性化を図りたい思いがそこにあります。


 在郷と町場、過去と現在を結びつける素材は、地域の文化や歴史であると考えます。これら地域の大切な財産(たから)に時間的、或いは空間的に循環しながら、小さくてもキラリと光るまちづくり、日本のふるさと再生に向けて遠野はこれからも走り続けます。


※遠野市のHP:http://www.city.tono.iwate.jp/