ホーム > コラム > コラム第十七弾

執筆者の紹介


執筆者:奥村 圭二郎氏



プロフィール


1982年東京生まれ。

日本大学芸術学部演劇学科卒業後、劇団で制作をしつつ、取手アートプロジェク ト(TAP)にインターンとして参加。現在はTAP事務局スタッ フとして財務を担当し、社 会とアートのつなぎ役として活動している。普段は都内の文化財団で働いている。



取手アートプロジェクト
―市民、東京芸術大学、取手市の3者 共同によるプロジェクト―

1 取手市とTAP


 取手市は首都圏から40Km圏内の茨城県南部分に位置する人口約110,000人の都市である。JR上野駅まで常磐線で約40分というアクセスの良さから昭和40年代から急速に人口が増えベッドタウンとして発展してきた。人口増加に伴い、郊外への大型ショッピングセンターや住宅地の開発が影響し、現在取手駅周辺地区においては空洞化が深刻な問題となっている。こうした状況から取手市では、2000年に中心市街地活性化基本計画を策定、1990年に開校した東京芸術大学取手校地と連携し、取手駅周辺地区を「文化・芸術の発信拠点」として再生を図る事を目指している。また2005年には取手駅西口を中心にソフト・ハードの両面から「芸術・文化、商業・業務、情報、行政等の都市機能が集積・融合する”芸術の杜”」を創造することを目指す地域再生計画「取手”芸術の杜”創造プロジェクト」を策定し、内閣総理大臣認定を受けている。


 取手市では、市民、東京芸術大学と取手市の3者が連携し、1999年から継続して、取手市民に文化・芸術に触れる機会を提供し、若手芸術家の創作活動を支援する事を目指し、取手アートプロジェクト(TAP)が行われている。
TAPでは、全国からの作品プランを募集し会期中に展示をする「公募展」と取手市在住作家のアトリエを一般公開する「オープンスタジオ」を隔年で行っている。また、2004年から2006年にかけてはアートマネージャー育成プログラム「TAP塾」を行い、芸術と社会を結ぶ「つなぎ手」の人材育成事業にも力を入れて来た。TAPの構成メンバーのうち、東京芸術大学からは教員や学生が、取手市からは文化芸術課が関わっているが、中核となっているのは市内外からのボランティアスタッフである。ボランティアスタッフの構成は学生やフリーターから主婦や中高年まで様々であり、個人のバックグラウンドや年齢を超えて、様々な人達が同じ土俵で関わっていることがTAPの魅力と言える。
 


実施本部の様子 

 これまで取手市内の様々な場所でプロジェクトを展開してきたTAP。2006年には市内にある閉ざされた汚水処理場施設を展覧会場として使用し、大きな成功を収めた。また同年、国土交通省の「地域づくり表彰」において大臣賞を、2007年はサントリー文化財団より「サントリー地域文化賞」を受賞するなど、徐々にこれまでの成果が実を結んできている。



2 TAP2007


 9年目を迎えた2007年は、長年事務所スペースを置いていた取手駅東側にあるカタクラショッピングプラザから取手駅西側の国道沿いに移り、この場所一帯の再開発地区を拠点としてプロジェクトを展開した。「オープンスタジオ」の年にあたる本年は、総勢48件、78名のアーティストの参加があった。オープンスタジオの枠も今年度は取手市に隣接する利根町への新規開拓を行いエリアを広げた。また、入れ替わりの激しい在住作家の情報のデータベースというものが存在しなかったことから在住作家達のデータベース化も行った。

 9月16日には在住作家を集めてのフォーラムを行い、これまで顔を合わせたことの無かった作家同士をつなぐ場とした。

 会期中には、恒例となっているツアーやシャトルバス、インフォメーションセンターでのコンシェルジュを行うことによって観客を各アトリエへと誘導した。
取手市にとって多くの芸術家の存在は地域の文化を形づくる上で重要な要素であり、在住作家と観客とを出会わせるという点においてオープンスタジオの企画は取手市に眠っている貴重な地域財産に焦点を当てたプロジェクトと言うことが出来る。


アトリエを巡るツアーの様子 

 TAP2007ではオープンスタジオと同時に「メタユニット_M1プロジェクト」という展示を行った。「M1」とは積水化学工業(株)が30年前に作った移動可能なユニット住宅である。TAPでは中村政人氏(アーティスト/東京芸術大准教授)が長年行ってきた「M1プロジェクト」を取手で行う事によって、会期中まちなかにM1を使った作品を展示した。M1ユニットを使ったハード・ソフトの両面からの提案を行うことによって、取手市が構想している取手駅西側の再開発事業に向けて、まちづくりのデモンストレーションを図った。ハード側の提案としては6つのプランが実施された。


M-1ユニット 

 建築家の2人組であるミリメーターは市内をアートの家と例え、市内に壁紙を模したサインを設置した。サインは観客がオープンスタジオのアトリエや市内に点在するM1プロジェクトの作品を見て回るための道標となった。佐藤慎也(日本大学理工学部建築学科助教授)は、元々2階建てを想定して設計されたM1ユニットを3階立てにするプランを提示した。3階建てのM1は、会期中に会場拠点「はらっぱ2007」のシンボルタワーとなった。また、シンボルタワーの最上階には2人組のデザイナーユニットLinkによる光るM1、「Luminous M1」が設置された。Survivartは、利根川河川敷にM1を設置し、取手市を舞台に社会とアートの関係について考察する展示を行った。東京芸術大学佐藤時啓研究室は、M1をジャングルジムのような巨大な彫刻物として変容させ、訪れた観客が実際に作品で遊び、体験することの出来るものとした。北川建築研究所は、取手市内在住の庭師のユニット「緑のタマゴ」とコラボレーションし、住居の内と外を反転させる作品を展開した。

【アスレチックピラミッド】
東京芸術大学佐藤時啓研究室

【Survival Junction】 Survivart
【樹の家】北川建築研究所・緑のタマゴ

 また、取手と同じく常磐線沿線上の松戸や柏でもM1プロジェクトは実施された。ソフトプランとしては4つのプランが実施され、「はらっぱ2007」のM1ユニットを使用し、演劇やパフォーマンス、インスタレーション等が展開された。   

 毎年継続して行っている「児童作品展」はキリンビール取手工場のゲストホールで実施した。この場所で児童作品展を行うのは今回で2回目である。昨年、会場として使わせて頂いたところ、TAPの開催時期に工場への来場者数が飛躍的に伸びたため、今年は工場側からの期待にも応える形でこの場所で開催することが決まった。今年のテーマは「のぞいて ひろげて わたしのはこ」。これまで画用紙に絵を描いてもらっていた「児童画展」。だが、今年は「メタユニット_M1プロジェクト」と関連し、画用紙ではなく、M1ユニットと見立てた箱を小学校に配布し作品を制作してもらった。キャンバスが平面ではなく、立体になったことで、子ども達の意欲が削がれてしまうことが心配であったが、そういった制約に関係なく子ども達は思い思いに自分の作品と向き合っていた。

 

児童作品展の様子

3 円熟期を迎え、注目を集めるTAPの今後の展開


発足から9年目となったTAPは円熟した時期を迎え、外部からの注目度も増し、日本全国の様々な地域の方々が視察に見えるようなった。市民、東京芸術大学、取手市の3者が連携し、様々な立場の人間がプロジェクトに関わる形こそ、TAPが外部より評価を得ている所以であろう。

 3者のパートナーシップも年を重ねるごとに密になっていく。取手市とはTAP担当部署である教育委員会文化芸術課のみならず中心市街地整備課など他の部署との連携も増えてきた。東京芸術大学では今年は芸大創立120周年事業の一環としてTAPを位置づけ、企画への卒業生や学生、教員の参加など予算面、人的な面において協力関係を築いている。

 また、取手市と東京芸術大学との連携事業としては、UR都市機構の協力により取手市井野団地内にあるショッピングセンター一棟を若手アーティストの共同アトリエとして安価で貸し出す「井野アーティストヴィレッジ」をオープンした。まさに、3者の長年にわたる連携が下敷きになって初めて実現できたものである。


井野アーティストヴィレッジ 

 2008年は茨城県で国民文化祭が開催予定となっており、TAPも取手市の企画の1つとして位置づけられている。またTAPから派生した文化団体が中心となって市内在住の郷土作家や取手市にゆかりのある作家達による作品展示を行うなど、市民が主体的となって来年の国民文化祭に関わっていきそうだ。TAPにとっても発足から10年目という節目の年に向けて、より一層の熱意を持って準備を進めている。来年のTAPに期待して頂きたい。


TAPに関連するHP・リンク

・artscape 2006年11月15日号
 市民・大学・行政──アートマネジメントを活かした協同のまちづくり「取手アートプロジェクト実施本部」|影山幸一
http://www.dnp.co.jp/artscape/artreport/community/k_0611.html

・取手アートプロジェクト http://www.toride-ap.gr.jp/

・わがまち元気 特区・地域再生 第11回取手“芸術の杜”創造プロジェクト−茨城県取手市 http://www.wagamachigenki.jp/saisei/02_11.htm