監修

ブランドロジスティクス有限会社
代表
小出 正三さん

1963年新潟県長岡市生まれ。
国際基督教大学教養学部社会科学科卒業。
株式会社大広に入社。
新規ビジネス開拓専門のマーケッターとして活躍。その間、競合プレゼンテーションの獲得4割を誇る。その後、株式会社マッキャンエリクソン、オグルヴィ・アンド・メイザー・ジャパン株式会社などの外資広告代理店に勤務。
2000年、当時としては国内では数少ない「ブランドマネージメント専門のコンサルティング会社」ブランドロジスティクス有限会社を設立。
日本有数のトップ企業から、新進のドットコム企業まで幅広いビジネスのブランド開発に関わる。



「ブランドとは何か?」そう聞かれて皆さんは何を頭に描くだろうか?文字通り「ブランド品」を描く人もいるだろうし、「信用」という抽象的な答えかも知れない。いずれにしろ答えはバラバラだろう。

しかし、「ブランドの元になるものは何か?」と言う質問には、ほとんどの人が「モノづくり」という答えになる。だが、その答えは一昔前のブランドの考え方である。皆が同じように考えているのなら、それは過当競争に陥りやすいということである。如何に競争を避けて「自分の土俵」で勝負するか、それがこれからのブランド戦略である。


あなたの会社の相手は競合他社ではない!!


さて、先程「自分の土俵」で勝負すると書いたが、実際にブランド戦略を土俵戦略として考えてみよう。それは「誰と・どこで・何で戦うのか」ということである。今まであなたの会社は「競合他社と・他人の土俵(市場)で・製品スペックで戦う」という戦略ではなかっただろうか?いわば、どれだけ他社より安く、出来るだけ多くの人に売るかを競う戦略になるが、それでは限られたスペースの狭い土俵(=限られた市場)で、相手に合わせて戦わざるをえない。

しかし、これからのブランド戦略においては「お客様満足と・自分の土俵(お客様との繋がり)で・様々なアイデアで戦う」という風に考えて、土俵を広げること(=ユニークなアイデアや満足される商品品質)に力を注げば、お客さんを囲い込んで有利に戦えるはずなのである。

そして、そのように自分で作った土俵を有効に使っていけば、他社との競争を避けることができるのである。そして、それこそが今のブランド戦略と言うことが出来るだろう。

ブランドを構成する3つの選択肢

基本的にはブランド経営は3つの種類に分かれる。それはビジネスをしていく上でのプレイヤーによって分けられる。ブランドとはいわば『ビジネス幅』へ名を付けたもので、他社とは違うユニークなビジネスと満足させるブランドを通じて、お客様の心にブランドロイヤルティを作り出すのが目的である。3つのブランド展開を知ることで何がいま有効なブランド戦略か考えてみよう。

●企業ブランド
家電でいうと「松下=安くて壊れないモノ」「ソニー=何か面白いモノ」のように“企業が長い歴史で築き上げた、その企業独自の価値観に基づいた品質管理”が企業ブランドである。
●製品ブランド
ビールでいうとアサヒスーパードライがまさに製品ブランド。この製品名だからというイメージを喚起させて、それなら購入したいと思わせるのが製品ブランドである。

●お客様ブランド

一般人のブランドイメージでもっとも名前があがるのが、このお客様ブランドである。ルイ・ヴィトンやシャネル、エルメスなど欧州ファッション系ブランドがそうである。そして、今までの日本の古い経済感覚ではお客様ブランドが抜け落ちているのである。それは、「より安く、より多い人に、より多くのモノを」が日本の企業経営における根本理念だったからである。

しかし、欧州ファッション系ブランドは、もともと欧州の社会的なエリート階級に奉仕するために生まれたブランドである。そこから「何を作るか」ではなく「誰のために作るか」が最も重要視されている。そのため「特定のお客様だけに、その人だけに許された贅沢を、より高い価格で」という多くの企業とは逆のブランド経営がなされているのである。そして、日本人がこれらのブランドを買い漁るのはエリート階級に属するという“夢をみる”という側面が強い。確かに、これらのブランドを「歴史や伝統が違う」と一言で片付けることもできるかもしれないが、そうではなく「お客様に奉仕する」ブランド展開と考えれば、あなたの会社でも実現可能なはずである。

ナイキの成功にみるブランド戦略

いまやシューズメーカーというだけでなく、スポーツ&フィットネスブランドとして世界一のビッグブランドになり、世界中に知れ渡っているナイキ。しかし、その歴史は意外と浅く、創業からまだ約40年の会社である。そして、ナイキは、設立当時は鬼塚タイガー(=現アシックス)の輸入代理店でしかなかったのである。

いわばバンに商品を積んで売り歩く行商に近い存在だった会社が、瞬く間に大メーカーへとステップアップしたのである。そのアメリカンドリームを体現したような成功にはどんなブランド経営があったのか紐解いてみよう。




ナイキタウンは、ナイキの商品だけを扱う"ブランドストア"(メーカー直営の小売店舗)で、米国の主要な都市、12カ所で展開されている。ここでは一般のスポーツショップと違い、モノだけでなく、ナイキの世界観を発信している。そして、ナイキの商品知識と歴史に長けた販売員によるお客様の要望に応じたスポーツオーソリティーとしての対応が望める。いわばナイキタウンは、ナイキに関する小宇宙であり、一時的とはいえその製品を作るメーカーに対してお客様が主人になれる瞬間を与えているのである。これは、ルイ・ヴィトンやシャネルの売り方と同じであり、ナイキと同業種との違いを表すブランド展開である。
ナイキは広告活動も盛んに行っているが、それは他社も同じである。違いを生んでいるのは商品を卸した後に、ナイキタウンのようにビジネスの幅を広げているところである。そのビジネス幅の広げ方で他社との競争を無くしているのである。



ナイキの社員に“ナイキらしさ”って何かと街中で問えば、「あれはナイキらしいよね」「あれはナイキらしくない」と指差しながら歩くことができるという。これは自社の企業ブランドに対してのイメージが皆で共有されていることの証である。ナイキは企業ブランドのメッセージとして“Just do it(=とにかくやってみること)”と名づけていた。企業メッセージがお客様の方向ばかり向いてしまって、社内ではまるで理解されていないケースというのは数多い。ブランド=ビジネスであると考えるなら社内での価値観や考え方を統一できていることがナイキ成功の大きな要因である。



ナイキの創業者は中距離ランナーとそのコーチである。彼らが目指したのは、自分たちも含めたシリアスなアスリートひとりひとりを支援するメーカーである。その理念で、ナイキは経営されていった。そして、その戦略が功を奏したのはバスケットボールのマイケル・ジョーダンを支援したことによるブランド力向上につながるだろう。アスリート個人との直接の繋がりこそ、ナイキのスポーツに対するシリアスな姿勢の現れと言える。
1998年のフランスワールドカップの際も、ナイキは大会スポンサーになろうとはしなかった。大会をスポンサーすることが、必ずしもアスリートを直接的にサポートすることにはならないという信念があるからである。その代わりにW杯会場の数キロ離れた場所で、ストリートサッカーの大会を催して、自分たちはアスリートとの直接の繋がりを第一に考えるメーカーであることを改めて示している。
これはナイキのブランドとしての行動パターンを示していて、そして、この行動パターンこそ、これからのブランド戦略をたてるために重要なことであり、学ぶべきところである。