監修

ブランドロジスティクス有限会社
代表
小出 正三さん

1963年新潟県長岡市生まれ。
国際基督教大学教養学部社会科学科卒業。
株式会社大広に入社。
新規ビジネス開拓専門のマーケッターとして活躍。その間、競合プレゼンテーションの獲得4割を誇る。その後、株式会社マッキャンエリクソン、オグルヴィ・アンド・メイザー・ジャパン株式会社などの外資広告代理店に勤務。
2000年、当時としては国内では数少ない「ブランドマネージメント専門のコンサルティング会社」ブランドロジスティクス有限会社を設立。
日本有数のトップ企業から、新進のドットコム企業まで幅広いビジネスのブランド開発に関わる。

不況からの脱出を図るタクシー業界


ブランド経営の実例として、タクシー業界を取り上げてみよう。かつての不況は過ぎ去ったとはいえ、いまもタクシー業界を取り巻く環境は厳しい。それを打破すべく多くのタクシー会社が値段面やサービスで他社との違いを押し出そうとしている。

タクシー会社にとってのブランドとは


タクシー運転手は所属先により2種類に分けられる。一つは法人のタクシー会社に所属すること。もう一つは個人タクシーとして個人でタクシーの経営をする方法である。

まず、タクシー会社にとってのブランドとは、会社名そのものとなる。例えば、通りでタクシーを探していている人がいるとする。その通りには2種類の会社のタクシーが止まっていたとしよう。一つは有名な会社(A社)で安心感があるが、もう一つは聞いたこともない名前の会社(B社)であったとする。その場合、あなたは迷わずA社のタクシーを選ぶだろう。逆に、そのA社に以前乗車して接客態度や料金面で不満があったとすれば、絶対に選ばないはずだ。つまり、タクシー会社の知名度が、お客さんの過去の印象と重なって乗車の選択肢につながっているのである。従って会社としての企業イメージこそが乗車率アップの要因になってくる。

今までは、企業ブランドに乗っかって受身であったタクシー会社も、料金面や接客マナーなどの面での競争が激しさを増している。確かに、それらもお客さんを考えたサービスの一貫とはいえるが、それは前述した古い経営戦略である。このまま低価格戦争に巻き込まれても勝者はいないかもしれない。

音楽を流すことでジャズタクシーをブランド化した個人タクシー

個人タクシーは法人タクシーよりも熟練された運転技術が問われるが、ブランド力においては法人タクシーに劣る面が多い。しかし、それはブランド力をあげることで逆転が可能なのである。そんな成功例をジャズタクシーとしてオリジナルの個人タクシーブランドを打ち立てた安西さんの成功例を通して見てみよう。

安西敏幸さん(64歳)
1974年からタクシードライバーになる。1991年から個人タクシーとして開業。それと同時に真空管アンプを搭載して車内でジャズを聴ける車にして営業を始める。現在は著名人からも指名される個人タクシーとなっている。

ジャズタクシーはもともと安西さんがジャズを好きで、個人タクシーを始めるにあたって音楽を聴きながら仕事が出来ないかという発想から始まっている。それを中途半端に聞ける環境を作るのではなく、車内に真空管アンプを入れて最高の音質で楽しめるように考えて営業を開始した。

最初は自分が楽しめるようにしていたのが、乗ったお客さんからの口コミなどで広がって、さらに、それを聞いたマスコミに取材されたりしたことでジャズタクシーとして認知されることになったのである。そして、今では乗るお客さんの8割は予約客だけで埋まってしまうとのことである。

では、音楽を取り入れるだけでジャズタクシーのブランドが成功しているかというと、そうではない。それを確立して、リピーターを作るための努力には、多くのブランド戦略に通じる発想が凝らされているのである。




ジャズタクシーブランド戦略

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安西さんは64歳である。現在の個人タクシー運転手の平均年齢は約60歳である。この世代はパソコンのような複雑な機械を苦手としているものである。実際、「東京の個人タクシーはいま2万台近くあるけど、その中でホームページを出しているのは10人ぐらいしかいない」と安西さんはいう。

その中で、安西さんはいち早くパソコンを活用して、ホームページを開設。「これだけ安く、効果的に、その上お客さんと直接やり取りできるものを利用しない手はない」という。ジャズタクシーを多くの人に利用してもらえるよう工夫しているのである。ここ1年はブログも立ち上げて、今はミクシィにすでに取り組みだしているという。

◆安西さんのジャズタクシーホームページ  http://homepage2.nifty.com/jazztaxi/


⇔す音楽の工夫

音楽は真空管アンプとi-Podを繋いでスピーカーから流される。音はもちろん高音質で、下手な音響設備では出せない音である。そして、i-Podには1万曲という大変な数の曲が入っている。その中に安西さんは200曲ほど一般的にも馴染みのあるポップスやロックを入れている。
それは、お客さんが乗ったときに、例えば、馴染みのあるイーグルスのホテルカリフォルニアを流したり、宇田多ヒカルが歌うジャズを流して、誰が歌っているかクイズを出すなどしてお客さんとのコミュニケーションツールとして活用するためなのである。

そして、i-Podにしているのも、信号待ちなどでお客さんからリクエストがあったときに、素早く選曲できるようにと考えて使っているのである。ただ好きなことを楽しくやっているわけではなくしっかりとお客さんを考えた戦略が生かされているのである。

お客さんを喜ばせる演出

ジャズタクシーで安西さんはジャズクルージングという予約制のクルージングを行っている。これは、東京駅前を出発してリトルニューヨークと安西さんが呼ぶ隅田川の一角を廻り、レインボーブリッジや東京タワーをジャズタクシーで廻るオリジナルのクルージングプランである。

そして、誕生日のカップルから予約があれば、それをバースデークルージングとして、予約してきた相手と一緒に、誕生日の人を喜ばせるために盛り上げてあげる。前もって花束を買っておいて(別途2千円)いいタイミングで渡したりハーモニカでハッピーバースデーの歌を演奏したりする。

また、定年を迎えたサラリーマンを送り出すためにジャズタクシーがよばれるそうだ。そのときには、送り出す会社の人に、事前に定年を迎える人の好きそうなジャンルの音楽情報を仕入れておいて、その人が乗ってきたときに流してあげるのである。

定年を迎える大の大人が号泣するというが、皆と別れて感傷的なところに自分の好きな音楽や思い出の曲が、BGMとして流れるなんて最高のサービスではないだろうか。

●ジャズクルージング ■時間 約90分 ■料金 12,000円
ご予約は Eメール:jazztaxi@nifty.com jazztaxi-2602@ezweb.ne.jp まで

安西さんの成功例というのは、とても幸せな例と言えるかもしれない。
自分の好きなことが、そのまま仕事に結び付けられている人は稀だろう。しかし、それを根付かせるためには様々な発想による戦略がみえるのである。ブランドという言葉を意識しながら、安西さんは営業していないはずであるが、実はしっかりとしたブランド戦略が成されているのである。

過酷なタクシー業界の料金競争という土俵に立たないでも、安西さんのように発想を生かすことで、お客さんに高くても満足をあたえて、競争を勝ち抜くことが出来るのである。また、個人タクシーという最小単位でもブランド経営を出来るという意味でも学ぶべきところが多いのではないだろうか。