監修

コミュニケーション・インストラクター

浦野 啓子さん

株式会社東芝商事を経て、対話総合センターに入所。厚生労働省若年者就職基礎能力支援事業認定試験実技面接官のほか、多くの企業、団体で管理職や新入社員、営業担当者などへの各種研修を手がけている。

主な著書は「超一流の名刺マナー」「要点を聞く技術」「60分ですぐ身に付く電話の応対」など50冊以上。

クレーム電話は避けられない!!

電話を取った途端、物凄い剣幕で怒鳴られ、延々1時間以上も文句を言われる…。
出来れば避けたいが、避けられないのがクレーム電話。下手な対応は怒っている相手へ火に油を注ぐことになり、会社に甚大な被害を及ぼしかねない。そこで今回は例題をもとに、クレーム電話に上手に対応するための実践テクニックを紹介。

何気ないひと言で取引先を失ってしまったケース

では、さっそく例題を見ていこう。下の短い電話応対の中から、佐藤さんが犯した間違いが4つも見て取れる。その間違いとは一体…?

ケース A社に勤める佐藤さんが、取引をしているB社の馬場さんから受けたクレーム
馬場

「昨日、御社に伺ったときのことだけど、エレベーターに乗る時、御社の社員が慌てて乗り込んできてぶつかったんですよ。それなのに、一言も詫びの言葉がなかったんだけど…」

佐藤
「ああ、そうですか。何か急いでいたんですかね」
馬場
「何を言ってるんだ、君は! 謝罪の一言もないのかね。大体、お宅の会社はどういう教育をしているんだ。この前もエレベーターからお宅の社員が急に飛び出してきて・・・(次から次へと過去の他の不満を述べ始める)」
佐藤
「・・・・」

結果:
この後、佐藤さんは延々と1時間に渡って馬場さんからのクレームを聞くハメに。
さらに馬場さんの所属する B社との関係も解消。A社全体の被害になってしまった。


佐藤さんの犯した、電話クレーム処理における4つのミス

1、クレームだと思ったらまず「ごめんなさい」と謝る
佐藤さんは、馬場さんの苦情を聞いた上で納得してから謝ろうとしたのかもしれない。しかし、それでは遅すぎる。馬場さんは「ただ不手際を詫びて欲しい」と思って電話をかけてきたのだから、まずはお詫びをし、その上でどのように問題解決をするかの話をするべきだったと言える。相手の怒りは、いわば“やかんのお湯”のようなもの。一気に吐き出せば温度は下がるものなのだ。「ご迷惑をお掛けして、大変申し訳ございませんでした」とまずは謝るのが、この場合は正解である。

2、生半可な返事や反論が相手をさらに怒らせる

佐藤さんはまるで他人事のように「ああ、そうですか」と答え、「何か急いでいたんですかね」と同僚をかばうかのようなひと言を付け加えた。馬場さんはまず「生半可な返事」をされ、さらに自分の主張に「反論」されたように感じたのである。「そうなんですか」の生半可な返事や「そうはおっしゃいますが」の反論をすると、相手をさらに怒らせてダブルクレームに発展しやすいので要注意。クレーム電話だと思ったら、どんな仕事をしていても一旦作業を止めて全身全霊で対応するよう心がけよう。

3、クレームのレベルを自分で勝手に判断しない!!

クレームに大小はない。こちらが些細なことと考えても、相手にとっては一大事ということもある。馬場さんの話を聞いた佐藤さんは「それほど大した問題ではないだろう」と勝手に判断してしまったのが間違いの始まり。怒りのレベルは相手にしかわからない。どんなクレームに対しても、心からの応対を。

4、クレームが「幹」から「枝葉」へと行く前に先手を

佐藤さんの初期対応のまずさから、馬場さんは過去の不満も持ち出している。本筋から離れたクレームにいつまでも付き合う必要はない。佐藤さんは、怒りのエンジンがかかった馬場さんにビックリして黙ってしまったが、1時間ものクレームになる前にタイミングを見計らい、「馬場様、私のほうで勝手な解釈をしてしまい、大変申し訳ございませんでした。弊社の社員のマナーの問題ですね。今後、社内で議題として取り上げ徹底させるように致します。誠に申し訳ございませんでした」と相手の機先を制していれば、失敗も取り戻しようがあったのである。話が「枝葉」に分かれ出したときに先手を打てば、ここまで大事にはならなかっただろう。そして、ビックリしても絶対に無言になってはいけなかった。


お客様の怒りを静め、その後も顧客として繋ぎとめたケース

次は良い例を見てみよう。田中さんが山本さんの怒りを静めた3つのテクニックとは…?

ケース C店の食器を買ったお客様・山本さんからC店の田中さんへのクレーム
山本

「昨日、あなたのお店で食器を買ったんですけど、持ち帰ったら割れていたんですよ。そこにしかないから買ったのに一体どうしてくれるの!!」

田中
「大変ご迷惑をお掛けいたしました。当店で購入した食器をご自宅に持ち帰ったら割れていたということですね」
山本
「そうよ!! 丁寧に持ち帰ったのに…梱包の仕方が悪かったんじゃないの?」
田中
「お気持お察しします。ただちに商品の在庫と原因を確認させていただきますので、少々お時間いただけますでしょうか? すぐに折り返しご連絡を差し上げます」
※在庫がないことがわかり、梱包担当に落ち度があったことが判明する。そして5分後・・・
田中
「山本様、大変お待たせいたしました。梱包の者に確認をとったところ必要な包装が抜け落ちていたかもしれないとの確認がとれました。誠に申し訳ございませんでした」
山本
「やっぱり、そうだったのね。それで、いつ手に入るの?」
田中
「最速で1週間頂けましたら手配可能でございます。いかがいたしましょうか?」
山本

「1週間ね。わかったわ、これからは気を付けてくださいね」

田中
「はい、申し訳ございませんでした。今後、このようなことがないよう注意いたします」

結果:
電話で伝えたとおり、山本さんの手元には1週間後に約束の商品が届いた。
対応に満足した山本さんは、その後もC店に顔を出してくれることとなった。


クレームを丸く収めた、田中さんの3つのテクニック

1、テンポのいい応対

田中さんは、相手の怒りの矛先を読み取った上で、謝罪をしながら相手の呼吸に合わせるように会話を進めている。クレームを受ける側のテンポが悪いと相手の怒りは拡張しやすい。クレーム処理も相手と波長を合わせて話すことが必要である。ポイントは相槌をうまく入れていくことである。

2、相槌が相手の不満を封じる一手になる

相手の望む相槌を打っているのも見習うべきポイント。「その通りだと思います」「お気持ちはわかります」などとうまく相槌を打つと、相手を落ち着かせ「受け入れられた」と思わせる効果があるからだ。

迅速に対応策を提案し、最後に「いかがでしょうか?」とお客様にジャッジを委ねている点も参考にしたい。返答の口調や内容を注意深く聞くことによって、相手が本当にこちらを許しているかどうかがわかるからだ。特に相手が無口な方の場合は「1週間で商品をお届けします」などとこちらで勝手に解決策を断定しないよう注意したい。

3、少しの「間」が効果を上げる

山本さんが何に怒っているかを理解した田中さんは、「少々お時間をください」と断った上で山本さんから5分間の時間をもらっている。これは、原因究明・対処法決定のために必要な時間でもあったが、それ以外にも田中さん自身の心の整理という意味でも大きな効果があった。

もしも突然のクレーム電話で平常心を保てないと感じた時は、「誠に申し訳ありません。お客様が見えておりまして、すぐに折り返しお電話いたしますので」と伝え、一度、冷静に判断できるよう間を空けると良い。これは、電話だから出来るテクニックである。ただし、その場合は5分が目安。それ以上の時間はお客様の怒りを倍増させるだけである。

まだある! 覚えておきたいクレーム電話の対処テクニック

1、「手に負えない時」はチームで解決にあたる

不快感を抱いているお客様の心を元に戻すのは容易なことではない。
自分一人で解決するのが難しいと感じたら、周囲の人間に相談して会社の方針を仰ぐことも必要である。

2、「勘違いのお客様」を決して責めてはいけない

クレームを聞いて話を聞くうちに、お客様の勘違いだったというケースもあるだろう。そんな時は「誤解であることがわかって安心致しました」とホッとした気持ちを伝えよう。
勘違いは誰にでもある。「やっぱりお客さんが間違ってたんでしょ」と応じては相手の立場がないし、自尊心を傷つけるだけである。


3、「知らないこと」が出てきたら詳しい人間に替わる

不得意な分野や知らないことでクレーム電話を受けた時に、ついわかっているフリをして「はい」「その通りです」と嘘の返事をしないようにしたい。知らないことはやはり最初の段階で「わかりません」と答え、詳しい人間に替わるべきである。無理をして自分で処理しようとすると大事に発展することもあるので注意しよう。